最近の若者は海外志向が弱まっている、というのはコロナ以前から言われていたけれど、コロナ禍で加速しているようだ。

オンラインに慣れてしまったし、今はSNSでリアルタイムで世界中の人と感覚を共有できてしまう。ほんとにすごい時代だ。こんな時代に、若者を留学させようとするのは難しいけれど、今そういう仕事をしている。

ふと、自分がイタリアに留学した頃のことを思い出す。あの頃、インターネットはまだハシリで、ネット情報は偏りが多くて信頼できるかわからないと言われた時代。実家とのやりとりにはFAXを使っていた。現地に行かないと本も資料も信頼できる情報がなかった。

人づての情報も間違いが多くて、海外での失敗は山ほどあったし、露骨ではない差別も日々体感した。どちらかと言うと大変なことのほうが多かったし、無駄も多かったけれど、あの時代に間違いなく精神的に自立し、成長できたと今になって一段と思う。相対的に、客観的に物事を理解する力が身に付いた。

そういう体感というか、体得というものは、建築の内部に入って初めて建築を体験できることとよく似ている。

足を踏み入れて天井を見上げ、いや見上げなくてもわかる空間に囲まれて感じる感覚。それは美しい写真をたくさん見てわかるのとは全く違う。細部のことは忘れても、その時の自分と空間の位置関係から感じた建築の特徴や、建物が発する物体の質感は忘れない。

世界遺産や文化財といわれる建造物はもちろん、その忘れがたいオーラが半端ないし、名もない建物であっても、例えば学校の廊下や体育館、毎日通った駅舎や一時期暮らした家のように、そこに自分が存在したから思い起こせる感覚というものがある。

だから、やっぱり現地に行ってみるべきなのだと思う。

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