学生時代、ごく短い期間でしたが、オックスフォード大のガーデナーのお宅にホームステイをしたことがあります。
90年代でしたので、まだ今ほどガーデニングブームもなく、私の母が自宅で勤しむ園芸以上の知識もなかった私が、ガーデナーのお宅にホームステイできたというのは、今思えばとてもラッキーなことでした。
そのお宅はオックスフォード中心部に近い古いコテージで、代々オックスフォード大のガーデナーが住んできた家だといいます。お父さんはオックスフォード大の複数のカレッジを担当するガーデナーで、奥さんはてきぱきと仕事と家事をこなすワーキングマザー。10の娘さんと4歳の男の子がいて、小さなコテージは、私もいれるといっぱいでした。
初日にざっくりと家庭内のルールを説明されると、それぞれ仕事に学校に皆出かけて行ってしまいます。あまり英語が得意でなかった私は、必要最低限の会話でも気後れして、自分から積極的に家族とコミュニケーションをとることもできませんでした。それでも、生まれて初めての海外家庭での生活は、いろいろなことを学ばせてもらいました。
ホームステイの学生を受け入れているのに、日中誰も家にいないことも驚きました。子供が二人いるワーキングマザーは、それだけでも忙しいのに、どうしてホームステイの受け入れをしているのだろうと。お母さんによると、だからこそ、子供に小さいうちから家の中でもきちんと片づけたり、意味のあるルールを守ったり、多様な価値観に触れる機会をつくることが大切だと考えているのだそうです。
10歳の娘は、外国人の私を見ても全く人見知りしませんし、毎回お風呂の後にバスタブをきちんと掃除して出てくる習慣も身についています。去年、何か考えさせられるエピソードがあったとかで、家族で彼女一人がベジタリアンになったのですが、両親は自分で考えて決めたことだから、と彼女だけに別の食事を用意していました。はっきりと意見を言う娘の姿に、最初は少し生意気に見えたものでしたが、子供に自立を促し、大人と同様に意見を尊重する教育に、日本の教育とは大きく異なるものを感じました。
ガーデナーのお父さんは、日中も仕事の合間にちょこちょこ家に戻ってきます。ときどき、私を庭に誘ってくれました。3月だったので、まだコートを着込んでも寒く、どんよりとした日が多かったのですが、私にとっては、はじめてのイングリッシュガーデンの体験でした。
穏やかで口数の少ないお父さんが、庭の説明となると明るくよくしゃべるのです。この庭はブルーの花ばかりを集めたブルーガーデンで、僕はここが一番気に入っている、この部分は僕の担当になってから新しく花壇にしたエリアだ、ここは大学の宿舎の庭だから、白い花ばかりを集めてみた・・・などなど。
広い公園のようなカレッジの庭から庭へ、一般の人は通り抜けできない柵やゲートを越える、庭師専用ルートを通って案内してくれるのでした。とあるカレッジでは、ここにそんな入口が・・・!と思われるようなところから重厚なチャペルの2階のメンテナンス用通路に入って、ステンドグラスの窓沿いに並ぶ鉢植えの植物に水をやって回ったり・・・。大学で園芸を学んだお父さんは、知識の一環として、日本の庭についても知っていて、ときおり比較しながら説明してくれました。
大学に専用のガーデナーが何人も住み込んでいるなんて、さすが英国と驚いたり、大学内のそれぞれのカレッジに歴史あるチャペルがあるというのも、キリスト教国ならではと感心したり。歴史ある建物を素晴らしく手入れの行き届いた庭が囲むその雰囲気は、最高の教育環境にほかなりません。あまりにも絵のように完璧なその景観が、このガーデナーのお父さんのおかげで生き生きとしたストーリーのある世界を見せてくれるようになったのでした。植物を愛するお父さんの職人気質な姿には、国籍を超えて、何かにうちこむ人への親近感も感じました。
今ようやく自分の家の庭を少しだけ手入れするようになって、ふとあのオックスフォードのお父さんのと廻った庭のことを思い出します。
90年代でしたので、まだ今ほどガーデニングブームもなく、私の母が自宅で勤しむ園芸以上の知識もなかった私が、ガーデナーのお宅にホームステイできたというのは、今思えばとてもラッキーなことでした。
そのお宅はオックスフォード中心部に近い古いコテージで、代々オックスフォード大のガーデナーが住んできた家だといいます。お父さんはオックスフォード大の複数のカレッジを担当するガーデナーで、奥さんはてきぱきと仕事と家事をこなすワーキングマザー。10の娘さんと4歳の男の子がいて、小さなコテージは、私もいれるといっぱいでした。
初日にざっくりと家庭内のルールを説明されると、それぞれ仕事に学校に皆出かけて行ってしまいます。あまり英語が得意でなかった私は、必要最低限の会話でも気後れして、自分から積極的に家族とコミュニケーションをとることもできませんでした。それでも、生まれて初めての海外家庭での生活は、いろいろなことを学ばせてもらいました。
ホームステイの学生を受け入れているのに、日中誰も家にいないことも驚きました。子供が二人いるワーキングマザーは、それだけでも忙しいのに、どうしてホームステイの受け入れをしているのだろうと。お母さんによると、だからこそ、子供に小さいうちから家の中でもきちんと片づけたり、意味のあるルールを守ったり、多様な価値観に触れる機会をつくることが大切だと考えているのだそうです。
10歳の娘は、外国人の私を見ても全く人見知りしませんし、毎回お風呂の後にバスタブをきちんと掃除して出てくる習慣も身についています。去年、何か考えさせられるエピソードがあったとかで、家族で彼女一人がベジタリアンになったのですが、両親は自分で考えて決めたことだから、と彼女だけに別の食事を用意していました。はっきりと意見を言う娘の姿に、最初は少し生意気に見えたものでしたが、子供に自立を促し、大人と同様に意見を尊重する教育に、日本の教育とは大きく異なるものを感じました。
ガーデナーのお父さんは、日中も仕事の合間にちょこちょこ家に戻ってきます。ときどき、私を庭に誘ってくれました。3月だったので、まだコートを着込んでも寒く、どんよりとした日が多かったのですが、私にとっては、はじめてのイングリッシュガーデンの体験でした。
穏やかで口数の少ないお父さんが、庭の説明となると明るくよくしゃべるのです。この庭はブルーの花ばかりを集めたブルーガーデンで、僕はここが一番気に入っている、この部分は僕の担当になってから新しく花壇にしたエリアだ、ここは大学の宿舎の庭だから、白い花ばかりを集めてみた・・・などなど。
広い公園のようなカレッジの庭から庭へ、一般の人は通り抜けできない柵やゲートを越える、庭師専用ルートを通って案内してくれるのでした。とあるカレッジでは、ここにそんな入口が・・・!と思われるようなところから重厚なチャペルの2階のメンテナンス用通路に入って、ステンドグラスの窓沿いに並ぶ鉢植えの植物に水をやって回ったり・・・。大学で園芸を学んだお父さんは、知識の一環として、日本の庭についても知っていて、ときおり比較しながら説明してくれました。
大学に専用のガーデナーが何人も住み込んでいるなんて、さすが英国と驚いたり、大学内のそれぞれのカレッジに歴史あるチャペルがあるというのも、キリスト教国ならではと感心したり。歴史ある建物を素晴らしく手入れの行き届いた庭が囲むその雰囲気は、最高の教育環境にほかなりません。あまりにも絵のように完璧なその景観が、このガーデナーのお父さんのおかげで生き生きとしたストーリーのある世界を見せてくれるようになったのでした。植物を愛するお父さんの職人気質な姿には、国籍を超えて、何かにうちこむ人への親近感も感じました。
今ようやく自分の家の庭を少しだけ手入れするようになって、ふとあのオックスフォードのお父さんのと廻った庭のことを思い出します。