毎日新聞に連載されていたアウン・サン・スー・チーさんのエッセイ『ビルマからの手紙』。部分的にしか読んだことがなかったので、最近、増補復刻版を2巻入手し、改めて読んでみました。その知的で感性豊かな表現力。そして、私が知りたいと思っていたビルマ人の日常世界、文化や世界観が国際経験豊かなスー・チーさんの目から客観的、相対的に描かれていて、あっという間に虜になってしまいました。もちろん、政治の問題や国際社会との関係、経済発展問題などについても書かれているのですが、それ以上にスー・チーさんの傑出した個性が全体に滲み出ているのです。ビルマの日常への愛着や、民主化後の国の変化への懸念など、ビルマ人でもない私までこんなにも共感できるのは、まさに彼女のカリスマ性のなせる技なのでしょう。

世界が彼女に注目せずにいられないのは、民主化運動のリーダーとしてだけではなく、アウンサン将軍の娘であるからだけでもない。政治家としてのみならず、思想家として、芸術文化の理解者として、女性として母として、公私ともに類稀な素質を備えた人間だからなのだと改めて理解できたのです。

今月は、長年にわたる自宅軟禁を解かれて初めて久々のヨーローッパを訪問し、途中体調を崩しつつも、各国を歴訪して市民から熱狂的に歓迎され、ノーベル平和賞受賞記念講演を果たしたスー・チーさん。「この日が来ると信じていた」という言葉に、説明できない万感の想いを感じます。私たちも、数奇な運命を背負った女性の激動の歴史を目の当たりにしているのです。

この類稀な女性とともに、歴史に残る1ページを今まさに開こうとしているミャンマーの人々に期待しています。